文献

腰痛治療器「プロテック」の効果に関する研究
城内 博(厚生労働省産業医学総合研究所)
岡部和彦(岡部医院)
MariaBeatriz G Villanueva(Occupational Safety and Health Center,Philippines)

 

1.はじめに

 

わが国ではおよそ8割の人が生涯に腰痛を経験するといわれており、また職業性疾病の6割は災害性 腰痛である。腰痛の予防および治療は職業生活を質的に向上させるためにも、また経済的損失を出来る だけ少なくするためにも早急に対応すべき課題である。これまでにも腰痛予防対策はさまざまな角度か ら研究がなされて来ており、特にバイオメカニクスを基礎とした人間工学的な対策は大いに効果があっ たと思われる。また、わが国では1994年には労働省が腰痛予防指針を提出し、職場における腰痛予防 対策に本格的に取り組んでいるところである。しかしながらこれまで腰痛を抱える労働者に対する対策 は十分とは言えなかった。腰痛を抱える労働者数が数千万人に上ることは想像に難くないが、労働現場 ではいわゆる「腰痛ベルト」が腰痛を抱える作業者に使用されている例が散見される程度である。 このような状況をかんがみ、労働現場で使用可能な腰痛治療器「プロテック」が開発された。これは椅 子型自重牽引式の腰痛治療器であり、従来の整形外科領域で使用されている牽引装置に比べ、場所を取 らない、自分で操作が出来る、等の利点がある。本研究は腰痛治療器「プロテック」の効果を検討する ために行われたものである。

 

2.研究方法

 

「プロテック」は椅子型自重牽引式の腰痛治療器である。下腹部を締付けるベルトと背もたれで体躯を 支え、下半身を宙吊りにすることで腰部の牽引を行う(図)。座面は油圧式で上下できるようになって おり、患者自らが体躯をベルトでしっかり固定した後で、少しずつ下げることが出来る。また座面は使 用者の安全を考慮し、常に使用者の臀部に接触するように配慮されている。 「プロテック」の治療効果を見るために、これの使用前後での体躯の可動範囲、使用前後での腰痛の程 度について調査した。対象は整形外科外来に通院している患者13名で、「プロテック」の使用時間は 20分間である。患者体躯の可動範囲は「プロテック」の使用前後に、(1)前後屈往復3回、 (2)側屈往復3回、(3)回転往復3回、を腰部に痛みのない範囲でゆっくり繰り返してもらい BackTrakerで測定した。また腰痛の程度は「プロテック」の使用前後で問診により調査した。結果を表に示す。

 

3.研究結果および考察

 

「プロテック」の使用後に体躯の範囲(前後屈、側屈、捻転の合計)が大きくなったものは13名中7 名で、この内5名は20度以上の改善を見た。痛みの軽減を感じたもの6名、軽くなったもの2名、変 わらないもの4名、重くなったもの1名であった。「プロテック」使用後に体躯の可動範囲が20度以上 大きくなり、しかも痛みの軽減もあったのは4名であった。体躯の可動範囲が減少したのは6名おり、 5名は使用前後で痛みに変化は認められず、1名は腰が重くなったと答えている。 本研究では牽引が適応対象となる疾患、つまり腰椎椎間板症、腰部椎間関節症と診断された患者につい て「プロテック」の効果をみた。ただ一度の測定ではあるが、腰痛の軽減効果は十分に認められた。 一般に牽引の治療効果は、症状が良くなるもの1/3、効果が認められないもの1/3、症状が悪くなるもの1/3、と言われており、「プロテック」の治療効果は十分であると思われる。さらに「プロテック」では使用後に腰痛が増悪した例は認められず、腰が重くなった例が1例認められた。これは「プロテック」 の牽引が自重式であり無理のない牽引である考えられる。「プロテック」は、腰痛を抱えながら 働いている労働者が休憩時などに利用する腰痛治療器としての可能性が十分にあると考える。今後は従 来の牽引器具との治療効果の比較、さらに継続的に利用した場合の効果などについて検討していく予定である。